時は平安。
狩猟集団"マタギ"ありけり。
マタギとは東北地方・北海道で厳しいしきたりを守りながら集団で狩猟を行う者を指す言葉でした。獲物は主に熊の他、カモシカ、ニホンザル、ノウサギなども対象としていました。その歴史は平安時代にまで遡り、他地域の猟師には類を見ない独特の宗教観や生命倫理を尊んだという点において、近代的な装備の狩猟者(ハンター)とは異なる存在です。
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"マタギ"と山の神
マタギの山岳信仰は、自然崇拝の一種で、山岳と関係の深いマタギが山岳地とそれに付帯する自然環境に対して抱く畏敬の念、雄大さや厳しい自然環境に圧倒され恐れ敬う感情などから発展した宗教形態であると考えられています。そして、マタギが信仰する山の神は醜女であるとされ、ヤキモチヤキと言われています。そのため、山へ行くときには、より醜いオコゼを供えることで神が喜ぶとされていました。
もっとも、他宗教同様に、マタギでも地域や流派によって山の神に対する考え方は分かれています。醜い女神だと考えるのとは逆に、貴婦人のような美しい女神であるという流派もあります。
また山に入ると里言葉に代えて、山の神を畏れ尊び、日常生活の「汚れ」をはらい猟場を汚さないために、イタズ(クマ)、コシマケ(カモシカ)、セタ(犬)、サンペ(心臓)、キヨカワ(酒)などのマタギ言葉が使われています。
- 魔除けのモロビ
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- マタギの集落の神棚には必ずと言って良いほど、モロビという植物が捧げられています。一般的にはアオモリトドマツと呼ばれています。森吉山の山頂付近はモロビの原生林で覆われています。モロビの香りは穢れを払い、魔除けの効力があると信じられています。猟の前には、モロビを燻して全身を清め、里の匂いを消します。(樹氷の芯の部分になっている木でもあります。)